更新報告 2025年4月
今回、人工内耳の外部機に装着する電池について、感じたことを記しています。
人工聴覚器に関するMR適合性情報も更新されていますので、その公開サイトをリンクしています。
①新規:『人工内耳と空気亜鉛電池』項、新規掲載しました。
②新規:『人工内耳とMRI 2024年12月更新分』項、新規掲載しました。
更新報告 2025年4月
今回、人工内耳の外部機に装着する電池について、感じたことを記しています。
人工聴覚器に関するMR適合性情報も更新されていますので、その公開サイトをリンクしています。
①新規:『人工内耳と空気亜鉛電池』項、新規掲載しました。
②新規:『人工内耳とMRI 2024年12月更新分』項、新規掲載しました。
人工内耳と空気亜鉛電池
装用者には既知のことですが、人工内耳には専用の充電池がセットされています。
それとは別に、専用の電池ケースに空気亜鉛電池を入れて装用する方法もあります。
近年になって、初めて空気亜鉛電池用の電池ケースを使ってみたのですが。。。
空気亜鉛電池の方が充電池よりも3倍くらい日持ちする。
しかも、使い捨て電池ですから充電する器具がいらない。
充電の器具だけではなく、充電時間の心配もいらない。
充電池の方も数年以上充電の繰り返しを続けていると、持ちが悪くなり寿命が近づいてくるのですが、使い捨ての空気亜鉛電池はそういう心配の必要もない。
空気亜鉛電池でも電力がなくなる前には、ピッという警告音がなるので切れるタイミングもわかってくる。
電池替えには充電池より少しばかり手間ですが、毎日の充電がないことを考えると、すごく便利に感じます。
空気亜鉛電池は人工内耳専用の電池を購入しなければならず、年間でいえばかなりの個数を消費することになるのですが、充電池も数年後に寿命が来て購入しなければならなくなるとけっこうな費用(2万円前後×日常生活に必要な個数)は掛かります。
空気亜鉛電池は使い捨てですから、電池を交換するたびに費用を無駄にしているような気になりますが、充電池は一括した費用という感覚で、長い目で見るとどちらもそれほど変わらないように思います。
(本来ならば誰もが持っている感覚の為に、費用が掛かるのは理不尽な気もしますが、人工内耳電池補助も年々広がってきています。)
人工内耳手術後は、初めから人工内耳の外部機に充電池が幾つか用意されていますから、空気亜鉛電池の使用は特に考えなくてもよいのですが。。。
数年以上たって、充電池の持ちが減ってきたことを実感したとき、さて、新しく充電池を購入するべきか、空気亜鉛電池を使ってみるべきか、と電池の使用形態を考えてみてもよいのでは、と思っています。
どちらが日常生活に便利かは、装用者の年齢、日常生活の活動、普段の装用形態、無線マイクの受信電力、電池交換の手間など、色々な個人的な条件で、皆答えが違ってきます。
ですから、各自が多様な電池の利用法があると分かった上で、便利な方を選択すればよいのでは、と思っています。
私は空気亜鉛電池の利用が便利だと思いましたが、初めからスムーズに空地電池の使用に移行したわけではありません。
空気亜鉛電池を装用した最初はきちんと通電されず。。。
プッ、プッ、プッと通電されかけた音が途切れるような音(分かりやすい例でいえば、ガスコンロに火をつけようと火調節ノブを回した時に、カチッ、カチッ、カチッとなるだけで火がつかないような感じ)がなるだけでした。
電池ケースを外しては付け、また同じプッ音の音切れを聞く、その儀式を何度か繰り返すと通電してしばらくの間はもつ。
ところが、一旦外部機が外れると、また初めに逆戻りで、同じ音切れ儀式を繰り返す。
とても不思議でした。
空気電池は新品で、電池ケースも開封したばかりのもの。
テスターを使ってどちらも調べてみたのですが、どちらも正常範囲を示しています。
メーカーの方に相談すると、電池ケースの問題である可能性をみる為に、試用機を貸してくださいました。
それでも装用当初に、プッ、プッ、プッの音切れ音がなります。
試用の初日は自持ちの電池ケースより試用機の方がプッ、プッの音切れ儀式が短いような気がしたのですが、どうやら気のせいだったようで、結局、同じでした。
空気亜鉛電池の定格電圧が充電池より低いことは了解しているのですが、前機種の時は675P空気亜鉛電池(×2個で)の半分の定格電圧の、どこでも売っているようなAA乾電池1本でしっかり動いていたのです。
外部機が数年前に変わっているので、電力の消費も変わったのかもしれないのですが、前機種の時のプログラムを引き継いでいますし、数~10年以上プログラムを変えていない(雑音下用のプログラムを一つ追加してくれていますが)がため、内部機の動作電力はそれほど変わらない筈なのです。
う~ん、と考え込み、悶々とこれまでの過去記事を読み直していると。。。
結論から言うと、過去記事から解決しました。
助けになったのは、2018年4月に掲載の『人工内耳の装用開始音』項でした。
乳幼児向けに書いた項目でしたが、これと同じ方法がプッ、プッ、プッの音切れを止め、滞りのないスムーズな通電へとつなげてくれました。
ちなみに、記事中にあるガガガキャ音と、プッ、プッ、プッの音切れ音は全く別の音です。
(おあしす注:ガガガキャ音はもはや昔。今の開始音は可愛い鳥鳴声のようになっています。)
『人工内耳の装用開始音』項の写真は、乳幼児向けの内容だった為、親御さんの3本指を使っていますが、成人当事者なら2本でけっこう。
ヘッドピースの腹と背を人差指と親指(或いは中指)ではさみ、体内部の受信コイルの上に、ヘッドピースの腹側になっている指をのせる。
通電したら、乗せた指をすべるようにずらして、送信コイルを受信コイルの上に置く。
そうすると、音切れすることもなくスムーズに通電します。
充電池ではこのような装用時の音切れは起こったことがない為、空気亜鉛電池の定格電圧に関係しているのかな?という気がしているのですが、それが装用時にコイル間の間に指を一本挟むことですっかり解決してしまいました。
以後、人工内耳を装用する時だけ指を介して通電させています。
もちろん、空気亜鉛電池を使って。
充電を気にしなくてよい生活は、とても便利に感じます。
電池の選択は各自それぞれだと思いますが、電池で同様の問題に当たったことがある方、音切れの為にマップをいじらなければならなかった方は一度、この方法を試してみてください。
人工内耳とMRI 2024年12月更新分
人工内耳や人工中耳など人工聴覚器に関するMR適合性情報が、日本磁気共鳴医学会から2024年12月16日に公開されています。
黄色部分をクリックされると、リンク先にサイトに飛びます。
人工聴覚器に関するMR適合性情報一覧 https://www.medie.jp/docs/artificial_ear_device.html
https://www.medie.jp/docs/artificial_ear_device.html
各自の人工内耳のMRIなど適合性を知るのには便利なものですが、MRIは多くの装用者には必ずしも必須の診断法というわけではないそうです。
何かの際には、まずは専門医、担当の耳鼻科医などとの相談を第一優先としてください。
更新報告
2025年最初の更新です。
今回、人工内耳の基準や聴覚障害の認定に対する考えを覚書きしています。
2025年が良き年になりますよう。。。
①新規:『人工内耳の成人適応基準 その5:”60-60”』項、新規掲載しました。
②新規:『聴覚障害の認定』項、新規掲載しました。
③新規:『マップが合わない時 その4』項、新規掲載しました。
人工内耳の成人適用基準 その5: ”60-60”
新型感染症騒ぎが酷かった間、情報がネットに頼るしかなくなってしまい、積極的に動くことをやめてしまいました。
その傾向は、騒ぎが下火になった今でも私の中にも又社会にも部分的に残ってしまい、ネットで読める以上の些細なことがわからなくなってきています。
例えば、今、米国では、人工内耳の適応基準は”60-60”、という流れが生まれています。
これは、聴力レベル60dBHL、明瞭度60%、を基準に人工内耳の装用を奨励していこう、という傾向です。
正式にFDAがこの傾向に人工内耳機器使用の承認をしているのかどうか、ハイブリット含めこれまでの承認済みの中に近い内容ともいえなくはないので医療機関の裁量によるアバウトさで認められているのか。。。そういった理解はあやふやなままです。
英語版のWikipedia「cochlear implant」を見ればわかると思いますが、米国での人工内耳装用者は数多く増え、2019年までで20万人以上になっています。
その装用も、中度~重度の感音性難聴が対象、と載っています。
昨年の大統領選任レース中にあった討論会では、対立する両候補ともが負担が大きくなっていく医療費・医療保険について大いに自論を戦わしていました。
そういう状況の中、本当に"60-60"が人工内耳の公式の基準となっているのか、うーん。。。実際がよく分からない状態です。
しかしながら、多くの医療機関、オージオロジストのサイトでは60-60の適応基準が語られています。
当サイトの過去記事、2019年6月の『人工内耳の成人適応基準 その4』項から、成人の適応基準の変遷に絞って簡単に抜粋してみますと。。。
米国では今から40年前に標準治療として承認された人工内耳が始まりました。
1985年当時は重度レベルで、明瞭度は0%が対象。
1998年には高度レベルで、明瞭度は40%以下に拡充。
2000年には高度レベルで、手術予定耳の明瞭度50%以下、補聴器をつけても60%以下に。
2014年にハイブリット(残存聴力活用型)人工内耳の承認で、低周波数が正常~中等度レベルでも高周波数が高度レベルで、手術予定耳のCNC明瞭度60%以下、反対側耳が80%以下に。
この2014年頃から米国では、明瞭度60%以下、というのが手術の検査に向かうだいたいの目安になってきていたのかもしれません。
かくして。。。この今では人工内耳は”60-60”(聴力レベル60㏈HL以上、明瞭度60%以下)を適応の評価に、と推奨されているのです。
”60-60”のデメリットは。。。補聴器ではとりあえず音だけでも聞こえていた自身の聴力が、人工内耳手術でほぼなくなってしまうことでしょうか。
インプラントの挿入がない低音部分に残る可能性はありますが。
”60-60”のメリットは。。。補聴器装用しても言葉が聞き分けられなかった(明瞭度60%以下)人が、人工内耳で明瞭度が上がり、言葉が分かり易くなるということでしょうか。
静寂下での単語や文章テストでは、会話音量で平均的に80%以上は聞き取れるレベルになる、とされています。
どちらが良いかを選ぶのは、成人の場合、本人次第となるでしょうが、補聴器でも困難となるほどの聞こえに悩んでいるのなら、人工内耳が勧められる筈です。
”60-60”と数値で適応基準が示されていることは、補聴器で苦悩している人には検査を受けてみる分かり易いガイド的な後押しになるのではないでしょうか。
日本でも残存聴力型人工内耳(そもそも人工内耳は主に高周波領域に挿入なのですが。。。)が出始めた頃から、おおよそそれくらいのレベル(目下は低音部)で手術が容認されています。
補聴器が役立たない程になった聴覚障害者は人工内耳を。。。と日本耳鼻咽喉科学会も積極的にメッセージを出しています。
そのうち、人工内耳成人適応基準は”60-60”という数値を目安にするようになるのかも。。。
聴覚障害と認定基準について
現在、米国では人工内耳の装用基準を”60-60”に、という流れが生まれているもよう。
この"60-60”とは何ぞや?
”60-60”のうち、前半の”60-”は聴力レベルの60dBHLを示しています。
この60dBHLとは、補聴器を使ったとしても、学業でも就業でも小さくはない支障が出ているレベルです。
60dBHL以上の聴力レベルでは、調整がよく効く補聴器の購入が必須となっているでしょう。
"60-60”のうち、後半の”-60”は語音明瞭度の60%以下を示しています。
この60%以下という語音明瞭度は、デジタル補聴器を使用したとしてもコミュニケーションが難しく、音を理解する補助に、視覚、蝕覚、推測も駆使しているのではないでしょうか。
そういう不自由さを鑑みて、”60-60”のレベルでは人工内耳が推奨される、という流れになってきているのですが、その根底には、このレベルになると人工内耳の方が良い聞こえを提供する、という見解があるからです。
この”60-60"に、日本も準じるようになった場合、現在ある聴覚障害認定制度とのギャップが生まれるという問題が生じます。
聴覚障害の認定を受けていない層の手術ということになり、医療現場でもやりにくいものが出てくるのではないでしょうか。
(高額医療費を活用できるとはいえ。。。)
(おあしす注: 高額療養費のこと。)
この際、人工内耳を装用するかしないかは別問題として、聴覚障害の認定の見直しをしてもよいのではないでしょうか。
以前、そのような声が上がっていたようですが、今の制度を50dBから、と見直すというのは伝音性難聴の関係もあって難しいものかもしれません。
なら、聴覚レベル60dB以上で聴覚障害認定の級をつけるのはどうでしょう。
伝音性難聴でも、中耳などの手術をして予後が良くなる方はいいのですが、補聴器装用だとこのレベルになると聴取は厳しくなってくると思いますし。
他には、聴力レベルはそこそこ良いけれど、補聴器を使用しても明瞭度60%を満たさない感音性難聴の方。
2018年12月の『人工内耳の日のイベント』項でも、耳鼻科医との質疑でこの問題に触れたのですが。。。
人工内耳の適応になる障害かどうかは不明として、補聴器をつけるとかえって聞き取りにくくなってしまう(裸耳の明瞭度より悪くなる)ような聴覚障害の方もいらっしゃる。
4級の身体障害者認定基準は語音明朗度が50%以下のもの、となっており、70dBレベルに満たない聴力の場合、裸耳の語音明瞭度が50%を超えると聴覚障害認定に該当しない。
このような聴覚障害者への配慮も考慮して、認定基準の見直しができないものでしょうか。
・聴力レベル60dB以上から
・感音性難聴60dB未満、OAE良好、補聴器使用で語音明瞭度60%以下から
を聴覚障害認定に加えることはどうなのでしょう。
将来に向けて、認定基準を”60-60”の風潮に準じるものに見直しては。。。という提案です。
マップが合わない時 その4
2020年10月の『マップが合わない時』項で、「マッピングの設定や感覚の一致を分かりやすく」と記していたのですが。。。そのことに触れます。
マップの設定は、各自に合わせた電極アレイの形態、位置決めした電極と神経との間隔、それに見合った刺激方法や符号化など、いろいろな術後状況で各自異なる結果になるので、それぞれの担当の調整者さんとやりとりしながら調整を、というしかないのですが、一般的な話として、自分でマップと感覚の合致を知る簡単な方法を。。。
(勿論、これは成人装用者に関してです。これから言葉を覚えていく乳幼児ではありません。)
おおざっぱなものではありますが、自宅でできて本人にも分かりやすい、一番手軽で簡易な判断方法は、というと。。。
別段、特別なことでもなくて、日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会の発表した指針にも書かれていることなのですが。
2024年4月の『人工内耳のアップグレード指針』項を覗いてみてください。
新機種へのアップグレード指針を載せています。
静寂下、65dBSPLの刺激音を1m離れたスピーカで提示した時の人工内耳での単語検査の明瞭度が80%。。。云々が書かれています。
この音量、65dBSPLの声は1m離れた普通の会話音。
一般的な人工内耳の聞こえというものは、静かな環境条件において、1m離れた普通の音声での単語や文章の聞き取りで平均的におおよそ80%以上の聞き分けが可能、ということです。
(CI2004検査は通常の語音明瞭度検査のことではなく、又、%の評価も同等ではありません。)
1m。。。つまり、普通会話の距離と音声で、単語や文章の聞き取りがよく聞きとれていることが大事。
これはイコール、感覚が合っているということ。
そして、快適域も合っている、ということなのです。
2016年8月の『聴覚と末梢神経障害2』項で、オーストラリアでの発表を囲み引用しているように、もうずいぶん以前から人工内耳装用(SPEAK法)しての人工内耳のみで、CID文章正答率が平均的に80%とされています。
(それ故に人工内耳の手術の適応基準は裸耳の良耳50%なら考慮、となった次第で。。。)
聞き取りの様相をきちんと知りたい方は、人工内耳を装用して、1m距離から何らかの単語の聞き取りテストを記録してみてください。
家族や友人にランダムに単語を選んでもらい、或いはレコーダーやスマホで聞きやすい単語集を使い、1か月ごと、1年ごとなど、期間を決めて。
装用当初はともかくとして、調整が落ち着いた後は経時的に良い明瞭度が続くようになっていくと思います。
これが同じ環境条件で、安定せずデコボコしていたり、音量を上げなければ良く聞き取れなかったり、或いは煩くて音量を下げなければ分かりにくかったりすると、快適域が合っていない、ということなのです。
自分でできる音量調整をしても解決しない場合は、マップ調整者に相談し、明瞭度が良く落ち着くように調整してもらってください。
調整しても良くない場合は、アップグレードの機種の方がよりアシストが効くかもしれません。
こうした記録を医療機関でやっている人もいると思いますが、装用当初のうちは定期的につけておく、或いは記録をもらっておくと、異常発生時の参照比較にもなり、マップ必要の発見が早くなりますし、聞き取りの変化も確認できます。
家族から最近聞き取り悪くなったね、と言われたりするより、数値で確認出来る方が自身も納得しやすいのではないでしょうか。
(追記: 適当でもよいという人は、身近な人との普段の会話での聞き取り具合を、時々に比較してみる程度でもいいかのもしれません。
過去の記憶などは曖昧になりがちで当てにならないのですが、アバウトな過ごし方でも長い目で見れば結果的にそんなに変わらないかも。)