2.6.24

2024年6月 更新報告

 2024年6月 更新報告



今回の掲載は、耳と魚がテーマです。

同じものを聞いていても、動物によって聞こえが違う、聞くターゲットも違う。。。それそれの聞こえに最適化している、ということなのでしょうか、



新規『人工内耳と魚』項、新規掲載しました。


新規『祖先の耳 その2』項、新規掲載しました。





人工内耳と魚

 人工内耳と魚



以前(2021年12月)に掲載した『人工内耳と鳥』の魚版。

魚達はどのように音を聞いているのでしょう。


一説には「側線」。

側線とは何?

今ならAIに聞く人が多いのかもしれませんが、水族館のスタッフさんに聞いてみました。

魚にも一応耳はあるのですが、側線というのは魚の体側に点々と線状に並んでいる一種の感覚器のようなもの。

短くまとめると、このような話でした。


その後、水族館のトルネード泳法が見れるところに行ってみました。

たくさんの小さく細い魚達が、同じ方向に一斉に遊泳しています。

大きく一斉に方向転換して回転するのがトルネード泳法で、正確には魚のスクーリングというそうです。

魚の学校ですね、大きな水槽の中でのスクーリングは圧巻です。


遠くからみると、黒い竜巻の様相。

近づいてみると、皆がそろって泳ぐ中で、ポツンとはみだした一匹狼ならぬ一尾魚が、2尾ほどいました。

泳ぐ方向も、泳ぐ速度も皆とは全然違う。

延々続く壮観なトルネードの横で、ちょっと寂しそうに見えます。


はぐれた魚には皆とスクーリングしない理由があるのでしょうか。

魚は目をつぶしても、スクーリングはできるのだとか。

魚の場合、見えないことは皆についていくことに、側線ほどには障害にはならない。

それなのに、側線をつぶすと、スクーリングができなくなるそう。

となると、このはぐれ魚は側線に問題があるのかな?

魚体には、一応側線らしきラインはあるのに、機能していないのかな?

そんなことを考えながら、はぐれた魚を見ていました。


グルグル一斉に回るせわしい小魚たちの群れの横で、はみだしっこの魚は水底近くをゆっくりマイペースで動いています。

その魚の真横(ガラス越しですが)にかがんで、トルネードの方を見上げてみると、並んで一斉に泳いでいる小魚達の、決まりきった狭いルートが見えてきます。

はみだした魚は、こうして下からの視界で広く眺めているのかもしれないと思えてきました。


側線を利用してスクーリングする小魚は、集団でスクーリングして動くことにより、捕食されることから回避したり、反対に餌のありかを追いかけたりする術を付けるそうです。

反対に、こうして集団行動をして生きる魚は、集団の一員を外れた単独行動をとることは難しくなるのかな?

皆で行動することが当たり前になっている魚は、疑うことなく、そのまま皆と一緒の生涯を終えるのでしょうか。


はみだした魚は、エサはどうしているのでしょう?

側線を障害しても、目とか別の器官が優れるようになって、自分で取れるすべを身につけるのかな?

身体を水面に浮かせて獲物に早くありつくとか、尾ひれだけでなく他の部分の運動も発達させて逃げ足早くするとか。。。


側線は、今の哺乳類でいえば蝸牛のような存在。

「魚のある種では30 ~ 200 Hz の刺激周波数で加速度に関する情報収集、別のある種は速度に関する情報を取得、それも30 Hz以下の刺激で最敏感。。。」などと英語版Wikipediaでは解説されています。 

魚の体は柔軟に左右に揺らせるのだから、得たい情報の刺激周波数が弱くても、目標物に興味があれば体をひねって取得周波数を操作できるのかな?

私達、人間の外有毛細胞だって、遠心性信号でも動いているのだから、同じように加速度や振動を操作して自分に有利なように取得をしている?


魚の動き検出システムの「脳は、泳ぐノイズを効果的に抑制し、獲物など環境からの小さな信号を明瞭化するといった、泳ぎの筋肉に与える遠心性の命令を側線にコピーする」ものだそう。

外有毛細胞も一緒じゃない?

電圧周波数変換器みたいなものかな。


「魚が動くと水中に乱れが生じ、それが側線システムによって検知され、他の生物的に関連する信号の検知を妨げてしまうかもしれない」

魚だけ?じゃないよ、人間だって雑音には弱い。

「これを防ぐ為には運動動作時に、自己生成した刺激受信からの興奮を打ち消す抑制となる遠心性信号を有毛細胞に送信することである。これにより、魚は自身の動きによる干渉を受けずに外部刺激を検出できるのである。」

人間でいうカクテルパーティ効果みたいなものかな。

人間も、コミュニケーションをとる時には神経の興奮と抑制を使い分けている、人工内耳開発者達が符号化や雑音抑制で問題にしていたことはそういうことなのでしょう。

最近は健常者でもイヤホンにノイズキャンセリング機能付きを求めたりするようになってきている感じだけれど。


こうして眺めていると、古代にいた側線に頼らない魚達のような、何らかのはみだしっこ達の生き残る術が進化になっていったのかも、と色々考えさせられる魚類観賞になりました。

水中環境状態を保持したまま側線器をコンパクトな内耳へと同化し、視覚や身体の変化を誘うような進化をし、陸にあがる動物になっていった、ということなのかも。。。大雑把な空想で失礼しますが。

祖先共通の耳から学ぶことは多いなぁ。。。サカナクンみたいな人に色々教わりたい。


側線はじっと見ていると、点々と魚の体の横に並び置かれて、何だか人工内耳の電極アレイ。。。っぽい。

人工内耳は、哺乳類の耳より魚の側線器に近い形の、エイド的な特殊例?

それともこれも長い目で見れば、一種の進化の形なのかも。。。


最後に、日本音響学会編集の音響用語から側線に関する引用を掲載します。


――――――――――――――――――――――――――


<側線器>


魚類の体側で外見上線状にみえることから側線管と呼ばれている管の中に存在する感覚器。

しかし必ずしも魚類に限らず、水生の脊椎動物にも広く存在する。受容細胞は先端部に感覚毛をもつため、有毛細胞と呼ばれるが、これと同形、同機能の細胞が高等動物の聴器や平衡器にも存在するため、これらの器官を聴側線系と総称することがある。

側線器の単位受容器は数十個の有毛細胞とそれを包む支持細胞および感覚毛を包む寒天状のクプラからなるニューロマスト(感丘)であるが、この配列や分化によって、通常形側線器、特殊形側線に分類される。

①通常形側線器

 ・管側線器

 ・遊離側線器

②特殊形側線器

 ・ロレンチニ瓶器(アンプラ形)

 ・こぶ状器(結節形)

管側線器は皮下に埋没した側腺管になかにあり、管内のリンパ液の流動あるいは圧の変化を感知している機械的刺激受容器である。

特殊形側線器の受容細胞は感覚毛がなくなり、いずれも電気受容器に分化している。


1.6.24

祖先の耳 その2

祖先の耳 その2



この春は何度か水族館をお邪魔させて頂きました。

太古の時代から新天地を選ばず、馴染みの海に残った魚の耳が目的です。

魚の聴覚に関しては「側線」が良く挙げられます。

側線って何?



英語版Wikipedia(2024年5月31日時点での)『Laterial line』を読んでみると。。。


――――――――――――――――――――――――――


側線(黄色ラインをクリックすると、発信元サイトに飛びます。)

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Lateral_line 



側線は側線器官 (LLO) ともいい、魚類にみられる感覚器官システムであり、周囲の水の動き、振動、圧力勾配を感知するのに役立っている。

動きによる変位に反応し、その信号を興奮性シナプスを介して電気インパルスに変換する有毛細胞として知られる特殊な上皮細胞によって感覚能力を得る。

側線は、群れ行動、捕食および方向付けに重要な役割を果たしている。

魚類の進化の初期段階で、側線の感覚器官の一部が、ロレンチーニ器官と呼ばれる電気受容器として機能するように変化していった。

側線システムは4億年以上前に分岐した魚類に見られるように、古代の、脊椎動物の系統群の定礎となるものである。


 (金魚(Carassius auratus)の斜め景観。側線システムの孔のある鱗が見える。)


<機能>

側線システムは、動物周辺の水中の動き、振動、圧力勾配を検知する。

空間認識と環境内操縦能力を与えており、方向づけ、捕食、魚の群れ形成に重要な役割を果たす。 

側線システムは、水中の障害物をその形状で判別するのに効果的な受動感知システムであることが解析で分かってきた。

側線によって魚は視界の悪い水中で遊泳したり狩りしたりできるのである。


側線システムによって捕食魚は獲物の起こす振動を検知したり、その発生源に方向を定めて捕食行動を起こしたりできる。

捕食魚は盲目であっても狩りはできるが、コバルトイオンで側線の機能を阻害すると狩りはできなくなる。


側線には魚の群れ形成の役割がある。

盲目のシロイトダラは群れに溶け込めるが、側線切断の魚ではできない。

暗い洞窟で魚が餌を探せるように、更に進化していったものという可能性はある。

メキシコの盲目洞窟魚アステュアナクス・メキシカンスの眼窩内や眼窩周囲の神経節は、水面近くに生息する魚の神経節よりも大きく、感度も約2倍も高い。


群れを作る機能の1つは、捕食魚の側線を混乱させることかもしれない。

単独の小魚はシンプルな粒子速度パターンを持つだけであるが、密集して泳ぐ(schooling:群れ)小魚の圧力勾配は複雑なパターンを作りながら重なり合っていく。

これが捕食魚にとって側線知覚による個々の獲物識別を困難にしている。

(おあしす追記;ミスの修正。「捕食されやすい魚」で小魚と訂正。)



<解剖> 

(側線システムは、皮膚や鱗を通す開口部(毛穴)の列を体外の液につなげる魚体に沿ってのびる管から成っている。小さな感覚器官である神経節(挿入図を参照)は、管に沿って魚体表面に一定間隔で配置されている。各有毛細胞には感覚毛の束が含まれる。)


(神経節が染色されている3本棘イトヨ)


側線は通常、魚体の両側に沿ってのびている微かな線状孔としてみられる。

側線の機能単位は、水中での動きを感知する個別の機械的受容器官の神経節である。

神経節には主な2種の神経節:管状神経節と表在神経節:がある。

管状神経節は皮下の液体で満たされた管内の側線に沿っているが、表在神経節は体の表面にある。

各神経節は、先端が柔軟なゼリー状のクプラで覆われた受容性の有毛細胞で構成される。

有毛細胞は大抵、グルタミン酸作動性の求心性結合とコリン作動性の遠心性結合の両方を備えている。

受容性有毛細胞は特殊化した上皮細胞である;通常は機械的受容器として機能する 40~50 本の「毛」微絨毛の束を備える。

各束内では、その毛は最短のものから最長のものまでの大まかな「階段」状で配置されている。



<シグナル伝達> 



(側線の速度コーディングは刺激の方向と、場合により刺激の強さを表す。1 神経節の描図。)


有毛細胞は、最長の「毛」又はステレオシリアの方向に毛束が偏向することで刺激される。

この偏向は陽イオンを、有毛細胞の脱分極または過分極を引き起こす機械的なゲートチャネルを通過させるようにする。

脱分極は、基底部の外側膜の Cav1.3 カルシウム チャネル(Calcium channel, voltage-dependent, L type, alpha 1D subunit)を開く。


有毛細胞は、刺激の方向性を伝えるためにレートコーディングによる伝達システムを使う。

有毛細胞は、一定の発火刺激レートを生むのである。

神経節に水を介して伝達された機械的な動きでクプラが曲がり、その刺激の強さに応じて変位する。

これにより、細胞のイオン透過性がシフトする。

最長毛側への偏向では有毛細胞が脱分極し、興奮性求心性シナプスでの神経伝達物質の放出が増加し、シグナル伝達の速度が速くなる。

最短毛側への偏向では有毛細胞が過分極し、神経伝達物質の放出速度を低下させる逆の効果となる。

これらの電気刺激は、求心性側方ニューロンに沿って脳に伝達される。


どちらの種類の神経節もこの伝達方法を利用しているが、それぞれ特殊化した組織は違った機械的受容能力をもたらしている。

表在器官の方が外部環境に直接さらされる。

その器官内の束組織は、束の中にさまざまな形や大きさの微絨毛を組み込んでいるような、一見無秩序なものである。

これは、粗いものの広範囲な検出をすることを示唆している。

対照的に、管状器官の構造は、圧力差のような、より洗練された機械的受容を管状神経節に行わせる。


電流が孔を横切ると圧力差が生じ、管液に流れを起こす。

これにより管内の神経節のクプラが動き、その流れの方向に毛が偏向する。



<電気生理学>

側線構造である機械的受容性の有毛細胞は、求心性および遠心性結合を介してより複雑な回路に統合されている。

機械的情報の伝達に直接関与するシナプスは、グルタミン酸を利用する興奮性求心性結合である。

神経節および求心性結合については種により多様で、異なる機械的受容特性を与えている。

例えば、海軍予備兵のような魚 Porichthys notatus の表在神経節は、特定の刺激周波数に敏感である。

ある種では30 ~ 200 Hz の刺激周波数で加速度に関する情報収集するようになっている。

別の種は速度に関する情報を取得、それも30 Hz以下の刺激で最敏感となる。 


(魚自身の起こす「ノイズ」にも関せずに働く、魚の動き検出システム。脳は、泳ぐノイズを効果的に抑制し、獲物など環境からの小さな信号を明瞭化するといった、泳ぎの筋肉に与える遠心性の命令を側線にコピーする。)


有毛細胞への遠心性シナプスは抑制性であり、アセチルコリンを伝達物質として利用している。

自己生成による干渉を制限するように設計された集団放電システムにおいて、それは重要な要素である。

魚が動くと水中に乱れが生じ、それが側線システムによって検知され、他の生物的に関連する信号の検知を妨げてしまうかもしれない。

これを防ぐ為には運動動作時に、自身で生じさせた刺激受信からの興奮を打ち消す抑制となる遠心性信号を有毛細胞に送信することである。

これにより、魚は自身の動きによる干渉を受けずに外部刺激を検知できるのである。


有毛細胞からの信号は、側方ニューロンに沿って脳に伝達される。

これらの信号が最もよく終着する領域は、おそらく機械的受容情報を処理および統合する内側八角外側核 (MON) である。

深部MONには、基底核細胞と非基底核細胞の明確な層が含まれており、電気魚の電気感覚側線葉に類似したPC的な経路を示唆する。

MONは、機械的受容情報を解釈する為、興奮性および抑制性の並列回路の統合に関与している可能性がある。



<進化> 

(このサメの頭部描写に描かれているのは、脊椎動物最後の共通祖先の機械的感覚器である側線器(灰色線)から進化してきたロレンチーニ器官(赤点)と呼ばれる電気受容器官。)


機械的受容毛の利用は聴覚システムおよび前庭システムの有毛細胞との機能と相同であり、それらのシステム間と密接な関連があることを示唆している。

これらの系の多くの重複する機能と超微細構造および発達上における強い類似性により、側線系と内耳は魚類でしばしば八側外側部システム(OLS)としてグループ化されている。

この側線システムは100 Hz以下の周波数の粒子速度と加速度を検出している。

これらの低周波数は大きな波長を作り、それが泳いでいる魚類の近距離場における強力な粒子加速を引き起こすが、音響短絡のせいで音波として遠距離場に放射されない。

聴覚システムは、波として遠距離場に伝播する100 Hz以上の周波数の圧力変動を検出している。


側線システムは古く、脊椎動物の系統群の基盤となっている;ヤツメウナギ、軟骨魚類、硬骨魚類など含め、4億年以上前に分岐した魚類グループからみられている。

大半の両生類の幼生と一部の完全水生の成体両生類は、側線に匹敵する機械的受容システムを備えている。

陸生四肢動物は潜水しても機能せず、二次的に側線器官を失っている。


サメや一部の魚類の皮膚に、窪みとしてみられるロレンチーニ器官と呼ばれる電気受容器官は、側線器から進化してきた。

器官を使用した受動的な電気受容は、最後の共通祖先での存在を意味しており、脊椎動物の祖先をもつ特徴といえる。

 



――――――――――――――――――――――――以上


ちなみに。。。MONって何?

MONを確認する為にネットで画像検索してみました。

その結果出てきたものを、一部写像化。